ある金曜日の夕方、ゴルフ仲間から「今からナイター行かない?」と連絡が来た。
ちょうどプロトタイプがいい感じに仕上がっていた頃だ。「これは絶好のテスト機会だ」と、二つ返事で参加を決めた。自分のアプリを、実際のラウンドで初めて使う。ワクワクしながらゴルフ場に向かった。
問題その1 — 文字が小さい
ナイターゴルフは、当然ながら照明はあるものの周囲は暗い。スマホの画面を開いた瞬間、思った。
「…見にくい。」
PCの画面で開発していた時には気にならなかったフォントサイズが、暗い屋外でスマホを見ると全然読めない。特にミスの選択ボタンに書かれたテキスト。「ダフり」「トップ」「シャンク」…。どれも小さい文字がぎゅっと詰まっている。
40代半ばの自分は、ここ数年で老眼が始まっている。普段の生活ではそこまで困らないけど、暗い場所でスマホの小さい文字を読むのは本当にきつい。スマホを顔から離してみたり、近づけてみたり。どっちにしても読みにくい。
昼間のラウンドならまだマシかもしれない。でもナイターの照明の下で、しかも疲れてきた目で、あの小さなボタンのテキストを正確に読み取るのは、自分ですら「見にくいな…」とため息が出るレベルだった。
自分で作ったアプリを、自分の目が拒否している。なんとも皮肉な状況だ。そして思った。これが自分でこれなら、同世代やそれ以上のゴルファーはもっとつらいはずだ、と。
問題その2 — カートの上で押せない
1ホール目を終えて、カートに乗り込んだ。さあ入力だ。スマホを取り出し、ミスの種類を選ぼうとする。
カートが動き出した。揺れる。ボタンを押そうとするけど、隣のボタンを押してしまう。戻って押し直す。また違うところを押す。
あれだけこだわって作ったUIが、揺れるカートの中では使い物にならなかった。
PCの前に座って、安定したデスクの上で、明るい照明の下でテストしていた。その環境と、実際のゴルフ場はまったくの別世界だった。
問題その3 — 意外とめんどくさい
文字が小さい、ボタンが押しにくい。それだけでもストレスなのに、いざ入力してみると「意外とめんどくさい」ことに気づいた。
自分で作ったアプリなのに。機能を削って、条件分岐でスキップもできるようにして、排他グループで操作も効率化して。それでも、実際のラウンド中に入力しようとすると、やっぱりめんどくさいのだ。
1ホール目、2ホール目くらいはまだ頑張れた。でも3ホール目あたりから「うーん、今のショット何だっけ…」と記憶があやふやになり、入力の正確性も怪しくなってきた。
問題その4 — データが消えた
そして、とどめの一撃が来た。
5ホールか6ホールあたりまで頑張って入力していたのに、何かの拍子にアプリのデータが消えた。全部。最初から。
原因は特定できていないけど、おそらくブラウザがバックグラウンドでメモリを解放したか、何か操作ミスでページがリロードされたのだと思う。ゲスト状態だったので、データはローカルストレージに保存しているはずだったけど、入力途中のデータは保存前に消えてしまったらしい。
一から入れ直す気力は、もうなかった。
「使えん」
カートの中で、そっとスマホをポケットにしまった。残りのホールは普通にゴルフだけをした。
帰りの車の中で、自分のアプリについて冷静に振り返った。文字が小さい。ボタンが押しにくい。操作がめんどくさい。データが消える。
「使えんアプリだな」
自分で作ったアプリに、自分でそう思った。
悔しいというより、「当たり前のことに気づけていなかった」という恥ずかしさが大きかった。開発環境と実際の使用環境は全然違う。頭ではわかっていたはずなのに。
翌日から、UIの見直しを始めた
翌日の朝、コーヒーを飲みながら、白紙のノートを開いた。
ボタンを大きくすればいいのか?フォントサイズを上げればいいのか?データの保存タイミングを変えればいいのか?
でも、なんとなくわかっていた。小手先の修正じゃダメだ。UIの根本的な考え方を変えないと、「カートの中で揺れながら、暗い中で、疲れた頭で入力する」という現実には対応できない。
この日から、ワンダフのUI大刷新が始まった。